PEACE STORIES

丸刈りの天使

夕食後、お父さんがアームチェアに座って新聞を読んでいると、お母さんが少しイラついたような口ぶりで言いました。「あなた、シーラにヨーグルトライスをちゃんと食べるように言ってやって」

シーラというのは10歳になる彼らの娘で、ヨーグルトライスというのは、ヨーグルトと米でつくるリゾット風の料理です。母親は、ヨーグルトライスが娘の健康のために良いし、肌にも髪にも良いと考えていたのですが、シーラはヨーグルトライスが大嫌いだったのです。

父親は娘に取り引きを持ちかけました。「シーラ、ヨーグルトライスをスプーン2口分食べたら何かプレゼントしてあげよう」

それを聞いたシーラは、目を輝かせてたずたずねました。「ホント? それなら、夕食に出た分を全部食べたら、願い事を聞いてくれる?」

お父さんは「いいとも。ただし、パソコンみたいに高い物はだめだよ」と言いました。シーラは、そんな高い物が欲しいわけじゃないと約束しました。

シーラはがんばって、深皿に入れられたヨーグルトライスを全部食べ切りました。そして、言いました。「私の髪を剃り落として、スキンヘッドにしてちょうだい」

それを聞いた母親は、思わず大きな声を出してしまいました。「何を言うの、そんなのダメに決まってるでしょ。あなたまでスキンヘッドの流行の悪影響を受けているなんて、びっくりだわ。女の子のスキンヘッドなんて、とんでもない!」

困った父親が言いました。「シーラ、何かほかの願い事にできないかな? ママが困っているのが分かっただろう?」

シーラは目に涙を浮かべて言いました。「でも、パパ、約束したじゃない!」

父親は娘と妻のあいだで板挟みになってしまいました。しばらく考えて、結局、妻を説得することにしました。「いまは約束を守ることが大切だと思うんだ。でないと、ぼくたちは信頼を失って、シーラに尊敬される親になれなくなってしまう」

母親は納得はしていませんでしたが、結局、娘の願いを聞き入れるしかありませんでした。父は娘の髪を短くカットし、それから電気カミソリで剃って丸坊主にしました。

翌朝、父親はいつものようにシーラを車で学校に送って行きました。すると、一人の女性が近づいてきました。シーラのクラスメートの母親でした。

彼女はシーラに、「シーラ、ありがとう。天使みたいに素敵よ!」と言ってハグをしたのでした。何のことか分からずキョトンとしている父親に、その女性が説明しました。

「私の息子は白血病になって、放射線治療のせいで髪が全部抜けてしまったんです。長いあいだ学校を休んでいて、今日が学校への復帰初日なんです。息子はクラスメートにからかわれることを心配していたんですけど、お見舞いに来たシーラが、そんなことはさせないと約束して元気づけてくれたのです。あなたのお嬢さんは、ほんとうにやさしい心の持ち主です」

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